契約書を作成する際に、その表題を「○○業務請負契約書」とするのか「○○業務委託契約書」とするのか迷ってしまうことはあると思います。
この「請負」と「委任」の違いは、民法の定めに基づきます。
請負
契約の当事者の一方が仕事を完成させる義務を負い、相手方が報酬を支払う。「仕事の完成義務」があり「完成した成果物」に対して報酬を支払うもの。
制作者が行った業務の完了分のうち、実際に発注者が利用可能になった部分(可分)については、契約が解除されたとしても発注者に対して報酬を請求できる。
委任
当事者の一方が法律行為を相手方に委託し、相手方がこれを承諾すること。「仕事の完成義務」はなく「作業工数」に対して報酬を支払うもの。民法改正(平成29年)により委任契約でも報酬支払の条件に「成果物の納品」を設けることが認められた。(民法648条の2)
このように請負契約には仕事の完成義務があり、委任契約には完成義務がなく仕事を誠実に処理するものという特徴があります。なお、委任契約には「善良な管理者の注意」(民法644条)が求められ、その職業上での一定レベル以上の処理をする必要があります。完成義務がないからといって手抜きは許されないということです。
請負契約の代表例としては住宅の建設請負契約があり、請負をする工事業者は住宅を完成させる義務を負います。WEBサイトの構築でも、同様に仕事の完成義務があるので請負契約とすることが多いです。
委任契約で特徴的なのは弁護士への法律事務の委託契約です。受託者である弁護士は、訴訟等の手続を誠実に行う責任を負いますが、裁判に勝つかどうかという結果には責任を問われません。
WEBコンサルティング業務も、クライアントの売上保証をすることはほとんどありませんから委任契約となります。
また、契約を中途解約する場合にも、請負と委任とでは扱いが異なります。
請負契約では、注文者は「(制作者の)損害を賠償」した上で、いつでも解約をすることができます。(民法641条)
委任契約では、両当事者がいつでも解約をすることができます。(民法651条)
但し、委任契約の解約でも相手方にとって不利な時期に解約をした場合は、その損害賠償をする義務が生じます。
このように、解約をする場面でも請負の方の責任が重いといえます。
このような請負契約の責任の重さを敬遠して契約書の表題を「委任契約書」とするケースも見受けられますが、契約の実態は表題ではなく契約内容で判断されるので、安直な責任回避はできません。(実態が請負契約なのに表題を委任契約とした場合には、その契約書は実態を優先して請負契約と判断されます。)
契約書でリスク回避を検討する場合は、表題の選択ではなく契約書の内容を充実させることで対策をするべきです。
それから、印紙税についても請負契約書と委任契約書では違いがあります。請負契約書は課税文書となるのに対し、委任契約書は非課税文書です。
表題が委任契約書だから非課税だと判断し収入印紙を貼付しなかった場合に、後から実態が請負契約だと判断されれば追徴課税(印紙額の三倍額)の対象となってしまいます。
通常のビジネスでは、仕事の完成義務を負うことの方が多いものです。その場合は表題を業務請負契約書として、取引のリスクを洗い出して自社に不利とならない契約内容を検討していきましょう。