何らかのトラブルが生じた場合で、原告と被告が遠隔地に住んでいる場合は、裁判を行う場所が問題になってきます。
そのような民事裁判を行う管轄については、民事訴訟法に定めがあります。
まず、大原則としては裁判の訴えは被告の所在地で行う(民事訴訟法4条)こととされています。つまり、訴訟を提起する側(原告)は、訴えられる側(被告)の所在地まで出向いて裁判をしなければいけないということです。
しかし、これには例外もたくさん認められております。
例えば、民事訴訟法第5条では、以下のようなケースでの裁判を行う場所(管轄)の指定がされています。(一部のみ抜粋して例示します。)
・財産権上の訴え
義務履行地とされています。売掛金の回収など通常の債権回収においては、債権者側の住所地で裁判を行うことができます。
・日本国内に住所がない者又は住所が知れない者に対する財産権上の訴え
請求若しくはその担保の目的又は差し押さえることができる被告の財産の所在地。
・不法行為に関する訴え
器物損壊などの不法行為については、その不法行為があった場所にて損害賠償請求の訴えをすることができます。
・不動産に関する訴え
不動産の所在地。
このように、裁判を起こすにもどちらの裁判所に訴えをするのか判断に迷ってしまうものです。
そこで、契約書を作成する際に、あらかじめ訴訟時の管轄裁判所を定めておく(民事訴訟法11条)ことが許されています。(民事訴訟法11条には、「(管轄の合意は)一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力を生じない」との条文があり、口頭ではなく書面で契約書を作成することが要件になります。)
この契約書で管轄裁判所を決めておく文言のことを専属的合意管轄条項といいます。この条項を記載しておけば、万一にも裁判になった場合も、あらかじめ定めておいた場所の裁判所で手続が可能になるのです。
専属的合意管轄条項には、通常は取引上の優位にある側の住所地の裁判所を指定することが多いです。よって、契約書を用意する側の住所地とすることがほとんどです。
但し、契約書にこのような専属的合意管轄の定めをした場合でも、契約の両当事者にあまりに不公平がある場合は裁判所の変更(移送)がされることもあります。
(例えば、サラ金業者と消費者の訴訟において、消費者の訴訟機会を奪うように作用した専属合意管轄条項の効力が否定されています。大阪地方裁判所1999年1月14日。)
民事訴訟法17条では、「当事者間の衡平を図るため必要があると認めるとき」には裁判所の移送を認めるとの定めがあり、専属合意管轄条項で裁判所(の場所)を指定していても変更されてしまう可能性はあるということです。
それでも、契約書に専属的合意管轄裁判所の定めをしておけば、基本的にはその合意内容に基づいて裁判手続は始められます。
契約書を作成する際には、専属的合意管轄条項は必ず記載しておきたい鉄則のひとつであることは間違いありません。