営業秘密保持契約書(Non-disclosure agreement、略称: NDA)とは、取引を行う上で非公開情報を開示する場合に、その情報を外部に漏らさせないために交わす契約書のことです。
組織内では就業規則や誓約書などに秘密保持条項を設け、取引先など外部組織との契約では業務提携契約書や取引基本契約書に秘密保持条項を設けることで秘密管理のルールを定めます。
池井戸潤原作の半沢直樹シリーズ「ロスジェネの逆襲」でも、IT企業の社長が形勢逆転の事業提携をする際にNDAを提示して話を進めるというシーンがあり、象徴的なツールとして描かれています。
営業秘密保持契約の効力営業秘密を守るためには、営業秘密に関わる人を対象とした契約書を用意する必要があります。契約書に営業秘密保持に関する条項を設けておけば、民事上の契約履行責任をもたせることが可能になります。特に厳格な秘密管理を求めるのでなければ、契約書で定める民事上のルールだけでも目的は果たせるでしょう。
一方で営業秘密が漏洩すると事業体の存続に関わるような重大問題となるケースでは、民事上のルールだけでは十分とはいえません。
その場合には、営業秘密の管理に刑事上の責任も加えて厳格に対処することが求められます。つまり、不正競争防止法上の営業秘密としての対象となる程度まで厳密な管理をする必要があります。
不正競争防止法上の営業秘密の定義では、(1)秘密として管理されていること、(2)有用な情報であること、(3)公然と知られていないことの三要件を満たすものとされています。
その三要件を満たしたうえで、営業秘密について、「物理的管理」、「技術的管理」、「人的管理」が継続的に実施されていることも求められます。
この営業秘密についての考え方や管理方法の詳細は経済産業省サイトに公開されています。
また、経済産業省サイトで公開されている営業秘密管理の契約書モデル例(PDF)を当職が編集しWORDファイルにしたものを以下に無償公開しております。
営業秘密管理の契約書例(就業規則・秘密管理誓約書・取引上の秘密保持契約条項など)
この契約書例はご自由に利用下さい。
ただし、利用に関し保証やサポートは一切行っておりません。
以下は、経済産業省の営業秘密管理指針の概要です。
営業秘密の三要件
(1)秘密管理性
情報にアクセスできる者を特定すること。情報にアクセスした者が、それを秘密であると認識できること。
(2)有用性
有用性とは、競争優位性の源泉となる場合を含め、そもそも当該情報が事業活動に使用されたり、又は使用されることによって費用の節約、経営効率の改善等に役立ったりするものであること。
(3)非公知性
当該情報が刊行物に記載されていないなど、保有者の管理下以外では一般に入手できない状態にあること。
(1)差止請求権(第3 条・第15 条)
「営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれが生じたこと」を要件に、侵害の停止又は予防(第3 条第1 項)に加えて、侵害の行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他侵害の停止又は予防に必要な行為(第3 条第2 項)を請求することができる。
なお、営業秘密に係る不正使用行為に対する差止請求権は、当該行為が継続する場合においては、当該行為及びその行為者を知ったときから3 年の消滅時効と、当該行為の開始時から10 年の除斥期間が設けられている。(第15 条)
(2)損害賠償請求権(第4 条~第9 条)
「故意又は過失」により「営業上の利益を侵害」されたことを要件に、損害賠償を求めることができる。
(3)信用回復措置請求権(第14 条)
「故意又は過失」により信用を害された場合は、謝罪広告等の営業上の信用を回復するのに必要な措置を求めることができる。
不正競争防止法での刑事的保護
不正競争防止法は、営業秘密の不正取得・領得・不正使用・不正開示のうち、一定の行為について、10年以下の懲役又は1000 万円以下の罰金(又はその両方)を科すこととしている(営業秘密侵害罪)。
日本国内で管理されている営業秘密については、日本国外で不正に使用・開示した場合についても処罰の対象となる。
いずれの行為も、「不正の利益を得る目的」又は「営業秘密の保有者に損害を加える目的」で行う行為が刑事罰の対象であり、報道、内部告発の目的で行う行為は処罰の対象とはならない。
なお、営業秘密侵害罪は、犯罪被害者保護の見地から、親告罪(被害者による告訴がなければ公訴を提起することができない犯罪)とされている。
営業秘密の管理方法
営業秘密の適正な管理には、「物理的管理」、「技術的管理」、「人的管理」を確立する必要がある。
(1)物理的管理
営業秘密が記載・記録されている媒体であることを、権限を持ってアクセスした者が客観的に認識可能な状態にする。
具体的には、書面にマル秘マークを押したり、電子ファイルの開封に関するパスワードを設定したり、記録媒体などを他の情報のみが記録されているものと分離して保管したりすることなどが考えられる。
(2)技術的管理
電磁的に記録されているデータの取扱いに関する各種ルールをマニュアル化あるいはシステム化しておくことが考えられる。
指定されたアクセス権者にのみアクセス可能な措置を講じる。
営業秘密を保存するコンピュータやシステムを外部ネットワークから遮断するなど不正アクセスに対する措置を講じる。
営業秘密のデータを復元不可能な措置を講じて消去・廃棄する。
(3)人的管理
厳重な物理的・技術的管理方法を採用しても、それを遵守すべき者が秘密管理の重要性を理解していなかったり、採用されている管理方法を的確に認識していなかったりした場合には、実効的な管理がなされず、その結果、意図的か否かにかかわらず、営業秘密が漏えいする危険性が相当にあるといえる。
そこで、アクセス権者であるか否かにかかわらず、全ての従業者等において、自社の秘密保護に関する認識を持ち、営業秘密侵害や漏えいを防止するような意識を持つことが重要である。
そのため、事業者としては誰がどのような営業秘密を扱っているかを把握した上で、誰にどのような義務を負わせるかを明確にするとともに、自社における営業秘密の取扱いに関するルール等を周知徹底させるために、日常的に教育・研修等を行う。
また、従業者、退職者、派遣従業者、転入者、取引先等、対象に応じた適切な管理を行う。